舞姫

国語の教科書で印象に残っている作品は『舞姫』である。高校の現国の担任であった亀島先生はこの作品をこきおろしたのでした。曰く「だいたい栄達のために女を捨てるのが気に入らない」「『青年』は『三四郎』に遠く及ばない」など、『舞姫』だけでなく、「わしは森鷗外二流論を書こうと思っている」と鷗外までもけなしたのだった。「石炭をば早や積み果てつ」の書き出して始まる格調のある文語体の『舞姫』をそんなに悪い作品とは思わなかったが、太宰の弟子とうわさされ畏敬の念で見られていた亀島の影響は私にとって絶大であった。大学に入学後、ある同級生と『舞姫』について議論になった。くだらない小説だと亀島の口をまねて言う私に対して、友人は抜きんでていい小説だと主張した。よし、じゃあもう一度それぞれ読み直してから、もう一度議論しようということになった。しかし、その後すぐに友人は事故で亡くなってしまい、結局再度の議論はかなわなかった。50年経った今でも書棚の『舞姫』の背表紙を見るたびに、その友を思い出す。